こぼれる こぼれる
こぼれていくくやしさの
こぼれる音をきいている
自分のくやしさは言わないまま
2015.5.27
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もう帰れないのに
がおう! がおう! と叫んでいる自分の声で
目が覚めた
あらためて見まわすと
わたしはまだふとんの中にいる
よかった! だれにも聞かれなくて
だけど因果なことにわたしは自分が
がおうだったことに気づいてしまったのだ
がおうなのに がおうと呼べないで
ちっともがおうらしくないということで
がおうの国を追い出されてきて
いつの間にか ここでこうしてくらしている
だから わたしのぎこちなさは
こそこそ言われているのは知っているが
どうしようもないのだ
あれこれときゅうくつでたまらなくなって
いまごろになってゆめの中で
がおう! がおう! と叫んだって
どうしようもないのに
あっちのだれにも 聞こえるはずないのに
がおう! がおう! とほえている
2015.5.27
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空家
米をといでいると
うしろから かぶさるようにはりついて
わたしの肩の上から長い手を出して
といでやるよという
いろりにいる女に
こいつを追い払ってよ! はやく! といっても
父はおれにはできないといって出ていった
うしろの手はだんだんのびてくる
弟もわたしがなにも言わないうちに
こそこそ父のあとをついてでていってしまった
うしろの長い手がだんだんのびてくる
しょうがないので
大きくもがいてふりはらったら
ひっくり返った拍子にへびになって
ずるずる ずるずる 家の中をはいまわっている
父をよんでも
弟をよんでも
もうだあれもいない
ずるずる ずるずる はいまわる音だけの中で
わたしは米をといでいる
2015.5.27
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引きずっていく
辛かった
面買った
重かった
重い思いを
思い思い
引きずっていく
2015.5.27
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天使
ひとりのこどもが
天使になりたいもの このゆびとまれ
天使になりたいもの このゆびとまれ
とさそっている
だれもとまらない
そのこどもは
泣き泣き 自分の左ゆびにとまって
天使になりたいもの このゆびとまれ
天使になりたいもの このゆびとまれ
ほかのこどもたちは
おれたち もともと天使だもんねえ
というかおして
ひとかたまりになって
くすくす くすくす わらっている
天使になりたいもの このゆびとまれ
天使になりたいもの このゆびとまれ
2015.6.4
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「帰郷」 2015.5.14/ 「たいざんぼく」 2015.5.20
「こぼれる音」 2015.5.27/ 「もう帰れないのに」 2015.5.27
「空家」 2015.5.27 / 「引きずっていく」 2015.5.27
「天使」 2015.6.4