Epilogue (4)
げらげらわらってる わらい茸
おいおい泣いてる 泣き茸
ぐちぐち言ってる ぐち茸
だまって並んでるのが ふつう茸です
あの まん中よりちょっとうしろの方にいるのが
わたしです
わたしたちは 集まって
食われにいくのです
註:(ルビ) 茸=だけ
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ぐうぞうのなかで
わたしが ずっこける
わたしのなかで
ぐうぞうが ずっこける
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わたしからはみだしちゃだめよ
そう言って飼っているのに
もがいている
とつぜん
青い大きな耳を
わたしの外へつきだす
耳へ
海をおびきよせる
あらしだ
だからあれほど言ったのに!
わたしからはみだしちゃだめだって言ったでしょ!
わめきながら わたしは
わたしごと
耳へ流される
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いつも行列にそって歩いていく
たまには通ってみたいちがう道もあるのに
口をきかないわたしになっている
きんちょうして行列にそっている
たまには通ってみたいちがう道もあるのに
行列にそって
行列にそって
行列にそって
口をきかないわたしになって
歩いている
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ひきだしの中から
あおいもめんのブラジャーがでてきた
かすかにせっけんと汗の匂いがする
あれこれ思いながらいじっている、先に
あらしの海が
見える
おとこ達が櫓を漕ぎおんな達がさわぎながら
船が通る
おんな一人と目が合った
にらんでいる
もっと沖へ漕いでいく
ひきだしの中から
さがしているものは見つからない
いつだってさがしているものが見つかったためしはない
あおいブラジャーだって
さがしたこともあったはずだ
海はよけいひどく荒れている
船はもう遠くへ行ってしまって
見えない
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さあ みんな
こんやは ふろに入ったら
みんなで新しいパジャマを着よう
と、父親のような声がする
それきり
なんの音もしない
だれの返事もしない
その中にわたしもいる
わたしもいるのはたしかだ
だけどわたしは
その中の
大ぜいいるこどもの一人なのか
それともその母親なのか
それはいつのことなのか
そしてそれから
どうしたのか
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でんきを消すと
息をしている
たとえば坂をかけ上ってきたときのような息
でんきをつけてみても
何もいない
また消す
ざしきの隅の方で
ふうっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ、
している
ときたま
わすれた頃に
まっくらな中で
ふうっ、ふうっ、ふうっ、ふうっ、
している
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オリ
になって
自分を飼う
その生態を
終日
見ている
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びん
の中の囚人たち
おたがいの罪を吸う
けして吸いきれないものを
吸いあう
風が強い夜
ころがって行ってしまいたいのに
自分が重くてころがれない
空っぽのびん
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きのうのわたしに
言いたいことあって言えないで
うしろをむくと
きのうのわたしもうしろをむいている
そのまたきのうのほうをみている
そういうきのうが
みえなくなるほどつづいていて
ずっとみているので
首がいたい
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痛いときには
痛いののために
わたしはただそばについている
だってわたしがさわいでしまえば
痛いのはよけい図にのってしまうから
痛いときには
だいじょうぶだよがまんできるよと言えば
痛いのもそうかなと思いそんな気になってきて
すこしはおとなしくなるから
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入学したとき
おとなりは
ゆうこちゃん
かわいいなまえ
そうおもったのに!
それが
この子だなんて
知らなかったから
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行きはぐれた言いわけを考え考え
学校へ行く
行きはぐれることなんてぜったいないのに
ぜんぜん別のこと考えながらだって
無意識のうちに学校へ着いてしまうのに
まい子になってみたい
まったく知らない道を歩いていてみたい
じぶんでも知らない子になってみたい
なんてこと考えているうちに
もう学校の前だ
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中学生になったとき
小学生のわたしを机のひきだしにしまった
机のひきだしをあけるたび
小学生のわたしは透明になる
ひきだしの中に、新しいものがふえるたび
奥へ奥へ遠ざかるわたし
についていってしまいたい
こころ
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言ってもないのに
わたしの奥のわるいことばが
わたしじゅうにひびいてしまう
なおしてもなおしてもかたむいてしまう鏡が気になっている
じぶんの柱骨にそって
まっすぐ立っていたいとおもいながら
鏡にそってかたむいたまま
わたしをなおせない
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上へ行くほど階段はせまくなるのに
同じ大きさの石がひとつづつ置いてある
それにさわらないようにして
足音もたてないようにして
やっとのぼり終った、
とたん
石がいっせいに落ちていく
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ぼおう、と
ときはなつと
うまのかたちになって
かけていく
もう見えなくなってしまっても
ぼおうぼおう
かけていくものが
わたしに振動してくる
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ぴりっ、とはがした
もう新しいひふができている
なおったのだ
傷は
もうなおっているのだ
なのに
はがした方のものが
いつまでも血をにじませていて
許せない
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音がして
はじけた
沼がひとつこぼれた
わたしが魚のかたちで泳いでいる
深くもぐった
もう見えない
もういちどはじけるじゅんびをしているのだ
長い時間かかる
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しっぽが
ほんの少しおくれた
他になんの落度もなかったとおもう
でも、やっぱり追放された
古い鳥居があって
それをくぐった
鳥居の
中へ入ったのか外へ出たのかもわからないまま
追放されてからはずっと
しっぽは
いっしゅんもおくれない
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「集まって 」「流れ星 」「あらし 」「無色の行列 」── 2000.10.3.(出) ──
「遠い 」「いつか」 「いる 」── 2000.11.10.(出) ──
「オリ」 「空っぽなはずなのに 」── 2000.11 ──
「言いたいのに 」「痛いとき 」「やな子 」
「朝 」「遠ざかるもの」── 2000.12 ──
「こだま」 2001.1.11
「しわざ」「動悸」 2001.1.12
「傷」 2001.1.26
「長い時間」 2001.2.12
「追放」 2001.2.25
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