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灰いろのものたちが
きれいなおんなをつれてきて
きょうからおまえの牢にこの人を入れるから
おまえはじゆうにしていいという
しんせきの人やきんじょの人がいっぱい来て
よかったよかったとなみだをこぼしてよろこんでくれた
だからわたしはよかったのかもしれない
わたしは牢のもけいをつくっている
おもいだしだしつくっている
灰いろのものたちが帰っていく
もけいの牢ではもけいのわたしが
そのもけいの牢をつくっている
いくらもけいをかさねても
あの牢にはとどかない
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人切れ
蓋切れ
耳切れ
夜切れ
いつ切っても
無きず
ななめに
矢さし
ここと切って
とうとう切れず
風だけ
ふいている
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真珠売りになって
ぶた飼いのところへくると
ぶたに真珠は用ないから
ここでぶた飼いになれという
わたしのしごとは
ぶたにえさをやることと
その肉を剥ぐことだ
いくら剥いでも肉は次の朝には
もうちゃんともとどおりになっている
わたしは毎にち肉剥にはげんでいる
ひれ肉はひれ肉の箱にロース肉はロース肉の箱に
きちんとつめて
商人と取りひきするのもわたしのしごとだ
ぶたはとてもわたしになついている
ここへきてから
わたしはとてもけんこうになった
真珠売りがきた
ぶたに真珠は用ないから
ここでぶた飼いになれといって
しごとをおしえた
この頃わたしは日ましに肉づきがよくなる
ぶた飼いはわたしをとくに気に入っているらしく
毎朝いちばんにわたしの肉を剥ぐ
だからわたしは毎にち朝からえさをたべるのに忙しい
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バスを待っているとき こがらしに吹かれて
わたしはみっつにちぎれた
いちのわたしが にのわたしに
おまえはむこうがわから乗れといった
にのわたしはだまってそうした
いちのわたしがバスに乗るとき 残ったわたしに
おまえは次のにしろといった
待っても待っても次のバスはこない
残ったわたしの寒い耳の中へ
おまえがそこでじゃましているから
バスが行かれないのだ と
とおくからきこえてくる
こがらしがひどくなる
わたしはもっとこまかくちぎれそうだ
これをかたづけなくちゃあ どうしようもないなあ
灰いろのものたちが
わたしを見ながらいっている
雪が降ってくる
あとからあとから降ってくる
もうすぐぜんぶ溶けるから と
灰いろのものたちがとおくへさけぶ
雪にわたしが溶けている
わたしがぜんぶ溶けないうちは
バスがこないのだ
雪が降っている
あとからあとから降っている
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あなたは自分の指にほうたいを巻く
けがをしたのはわたしのゆびなのにあなたは
自分の指にほうたいを巻く
わたしのゆびがあおざめるとあなたは
あわてふためいてもっときつく巻きつける
けがをしたのはわたしのたったこゆびだけなのに
あなたは
自分の指みんなにほうたいを巻いてもたりないで
とうとうありもしない六本めの指にまで
ほうたいを巻いて
あなたは
わたしのくびをしめにくる
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どこかで
きつねの遠吠えがする
わたしの骨を積んだ山車が
まくらもとを通る
ちがうよ
よく見てごらんよ
あれはおまえにつかまった鬼の骨だよ
少年が
そう言い言い通る
まってよ
あんたまだこどものくせに
なんでそんなにいそぐのよ
きつねの遠吠えはまだ止まない
おまえにつかまって鬼になるなんて
やだからね
少年は
もうとおくへ行ってしまったらしい
骨を積んだ山車がまた通る
きつねの遠吠えは
まだ止まない
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耳あかなんて
そんなものじぶんでほじるものじゃないわよ
ほら、かしてみなさい
むりやり耳かきをとってほじってやると
白い半透明なものができた
やめろよ
だからおまえはやなおんななんだ
おまえも死んでみろ
よくわかるから
こころの骨ぐらいそっとしといてくれ
こころの骨というやつは
ざしきのすみへころがっていって
かたかた鳴っている
ふん、おとこのくせにいじましいんだから
そんならそうとはじめから言えばいいじゃないの
いまごろになって……
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