てがみって てのかみさま? かど創房



・てがみ
・てんき雨
・うさぎ
・少女
・うぬぼれ
・らいおん
・くしゃみ
・かやねずみ
・皿の上で
・ふうちゃん
・おひさま
・ちっちゃな花
・雨
・ふみこ
・からすのなきぼくろ
・にんじん
・ぱん
・すいみつとう(一)
・すいみつとう(二)
・なみだ
・じゅもん
・自由
・あいさつ
・はやりうた
・まほうつかいのくせに
・おばさん どうしたの?








てがみ


てがみって
ての かみさま?

うれしいことを
はこんできた
あなたの
こころのてが
わたしのまんなかで
ひかっているので

いま
わたしぜんぶが
まぶしい


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てんき雨


びょうきで
ねている
家には
だれもいないらしい
そとは
いいてんきらしい

わたしは
まっさおなそらの
ちいさな雲のように
とまどっている

なみだが ひとつ
ふたつ みっつ
かってに おちてくる
……なく理由も
ないのに


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うさぎ


サーカスがかかったあの日は
わたしが うさぎ当番だった

うさぎが逃げだして
大風がふいて
-おまえなんかうさぎのくせに!
わたしは
サーカスの らいおんやとらに
あいにゆけないのに!
と もんくをいいながら
おいかけていくと
うさぎが 校庭のまんなかで
こっちをみながら わらっている
東の方で
サーカスの らっぱがきこえる

-さあさあ はやく! はやく!
おまえは
サーカスの うさぎ使いなのだから
と うさぎが わたしをよぶ

風が
たつまきのようにぐるぐるまわって
うさぎのすがたは
もう なかった

  からっぽのうさぎ小屋のなかに
うさぎの絵をかいて はっておいた
絵のうさぎに
にんじんやきゃべつをやると
おいしそうに たべた
それが 絵にかいたうさぎであることに
気づいたものは
だれもいない
いままでどおり
うさぎ当番が そのせわをしている

わたしがうさぎ当番の日は いつも
東の方から らっぱがきこえる

絵のうさぎはいう
-にげていったうさぎが 帰ってきたら
わたしは ここから出られるのね


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少女


ごりらになって
うずくまる

ごりらのかなしみは しゅるしゅる
ごりらのくるしみは どろどろ
ごりらのくやしさは ぼうぼう

わたしの誇りも
わたしのひみつも
ごりらのなきごえになって
やみのなかへ
にげてゆく

白い灰になってしまったごりらの
なかからおきて

わたしは
かみをすき
いつものわたしの顔で
学校へゆく


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うぬぼれ


からをぬいだら
せみのように とべるだろう と
夏の朝
へびはおもった

からをぬいでも
へびには
羽などなかった
へびは
神さまを うらんだ
せみなんかより
ずっときれいなからを
ぬいだのに と

そのとき
神さまは
風になって
へびにも
せみにも
涼しいものを
おくった


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らいおん


サーカスのらいおんの絵を
かきかけのまま
うたたねをしてしまったら

らいおんのひげに
クレヨンがいっぱいくっついていて
クレヨン箱が からっぽになっていた

サーカスなんか
とっくに終ってしまったのに
いつまでも
そんなことばかり考えているからだ と
かあさんは
もんくを いう

図画の時間
クレヨンがないので
絵がかけなくて
ろうかに立たされた

とおくの方で
サーカスのおんがくが きこえる
-はやくおいでよ
という声が きこえる
らいおんの声だ

もう けっして
サーカスの絵なんか かかない
というやくそくで
あたらしいクレヨンを 買ってもらった
かきたいものなんか ほかに
なにもないのに!

サーカスは
まだ 終っていないもの
だって ぼくは
サーカスの
らいおん使いなんだもの


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くしゃみ


くしゃみが
でそうで
でないんだ

かあさんに いったら
だれかに
うわさを されるのかもしれないわね
と いう

ぼくには
しっぱいや ひみつが
いっぱいあるし
いじわるしたことも
すこしは あるし

いいうわさなら いいけどねぇ
と にこにこしながら
かあさんは いう

くしゃみが
でそうで
なかなかでないんだ


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かやねずみ


かやねずみに
かみさまが
そらの もうふを
かけたので

かやねずみは
ゆめをみる
かやの はやしの
かやのなか

かやねずみは
うれしいな
そらを およいで
いるんだよ

ほら ぼくだって
はやいだろう
かぜにだって
まけないよ


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皿の上で


すいぞくかんへ行ってきた こどもが
夕食の 皿の上の
あじのひものの
ほねをとりながら
みてきた 美しいさかなの
はなしをしている

この子に
海でおよいでいた
わたしのすがたを みせてやりたいな
と あじのひものは
おもう

-そしてね
きれいなもようの さかながね
ああっ ほねが入ってたあ
このあじも
おなじさかなのなかまだなんて
信じられないね! かあさん
すいぞくかんのさかなは ね

こどもは まだ
むちゅうではなしている

この子に
わたしがおよいでいたころのはなしを
きかせられたら!
ああ わたしはほんとうに
いまそうしたいのだけれど

だんだん少くなってゆきながら
あじのひものは
まだ
おもっている


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ふうちゃん


ふうちゃん て
どんないろ?

ふうちゃんて
れんげそうの いろ

ふうちゃん て
どんなにおい?

ふうちゃんて
ビスケットの におい

ふうちゃん て
どんなおと?

ふうちゃんて
カスタネットの おと

ふうちゃん
ふうちゃん

うれしいことも
かなしいことも
いちばんさきに
はなしたくなる
ふうちゃんふうちゃん

 

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おひさま


きょうの
おひさまは
つんとしている

あまり晴れているので
おひさまは
じぶんでも
まぶしいのかな

雲が
ひとひら
ふたひら
ういているときの
おひさまは
とてもやさしいのに

雲は
きっと
おひさまの
ともだちなのね

だから
きょうみたいな日は
ともだちがいないから
さみしくて つい
つんとしちゃうのね


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ちっちゃな花


ふうっと
息をする
その息のおとで
いま
じぶんが咲いている
のが わかる
かぜが すこし
ふいている

こどもが ふたり
わたしをみつけて
おしゃべりしている

─あっ
こんなちっちゃな花が
さいているよ
この花にも
なまえが あるのかなぁ

─はなさん はなさん
わたしはなっちゃんよ
あなたは だあれ?

─はなさん はなさん
わたしはゆきちゃん
あなたのなまえを
しりたいの

わたしのこえが
こどもたちにきこえるなら

─あなたたちで
わたしのなまえをつけて
と いいたいのだけれど……

わたしは
もひとつ
ふうっと
息をする


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わたしの
あたまのうえにふってきた


ちきゅうには
こんなこどもがいるんだな
と おもったかな

かみの毛をさわりながら
肩をすべりおりながら
わたしのことを
どんなふうにおもったかな

地めんをながれて
花にふった雨たちと
はなしながら

川をとおって
海へながれながら
わたしのことを
はなしたかな

花のことを
きいたかな


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ふみこ


─ふみこぅ
ふみこぅ
ゆきがふってきたよ
ふみこぅ
ふみこぅ
ほら
ゆきだよ

わたしには
ふみこという
きょうだいも
ともだちも
いない

いつからか
こころのなかに
あそびにくる
ふみこ

─ふみこぅ
ふみこぅ
あんなに
ゆきがつもったよ


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ゆうやけ


ゆうがた
うらにわで
おおきなこえで
ないていたら

くちのなかから
わたしそっくりの こびとが
おおぜい
とびだして

それが みんな
いっしょになって
ないたので

からすも
むくどりも
おもしろがって
まねを したから

西のそらが
いつもより
まっかになった


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からすのなきぼくろ


かあかあからすの
なきぼくろ
まっくろくろで
わからない

─かあかあからす
なきむしからす
かあかあ なくたび
やまが わらう

かあかあからすの
なきぼくろ
ほくろが しろけりゃ
いいのにね

─かあかあからす
なきむしからす
かあかあ なくたび
かぜが からかう


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にんじん


すないろのまじょは
よそのはたけに
ごみを
すてにくる
ついでに
にんじんを
ぬいてゆく

そのいえのひとが
にんじんを
ぬいているとき
まじょが
とおりかかって
─そのにんじん
わたしんちのにんじんに
そっくりよと
きみのわるい目で
にらんでゆく


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ぱん


すないろのまじょが
じぶんでやいたぱんを
くばってあるくことが
ある
かちかちの
くろいぱん

─イーストきんを入れれば
きっと ふっくらしたのにね
と いうと

─わたしは
そのような まやかしは
しないのです
と いう
じぶんのはたけでみのった
こむぎのこなだけで
こしらえたのだ と
いう

  ほんとは
すながまざっているのだ
どくも入っているかもしれない

そのぱんを食べて死んだ
ねこの
うわさもある


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すいみつとう(一)


すないろのまじょは
すいみつとうが
だいすき

よそのにわにあるものでも
すいみつとうをみると
かってに入って
みんな たべてしまう

そのいえのひとが
気づいたときは
すいみつとうは
ひとつものこっていないで
たべかすだけが
にわじゅうにちらかっている

そのあと しばらくは
そのいえの
ありもしない
わるいうわさが
村じゅうに
ながれる


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すいみつとう(二)


すないろのまじょのにわにも
すいみつとうの木が
いっぽん
ある

あおぐろい
病気にかかったような実が
ひとつ
なっている

村の老人にきくと
ずっと むかしから
ああして なったままで
まじょも
気にしているらしい
というはなしだ

まじょに
すいみつとうのはなしをすると
─わたしは
すいみつとうはきらいですから
と いうだけだ


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なみだ


すなが
ふる日は
すないろのまじょが
ないているのだ

まじょのなきごえを
きいたものは
いない

まじょは
きどりやだから
なくことを
しられたくないらしい

まじょのなみだは
すなだけど
まじょも
なくことがあるなんて
いいとこあるな
なんて おもっていると
たちまち
村じゅう
すなだらけになってしまう


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じゅもん


─スナイロノマジョ
スナイロノマジョ
スナニナッテ
サバクヘトンデユケ

でたらめな じゅもんを
となえたら

きのうから
すないろのまじょの
すがたが
みえない

そして
かぜもふいていないのに
やたら
目に ごみが入る

まじょの
いじわるだけが
のこってしまったらしい


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自 由


どうしても
なめくじにしか
みえない
と いっても

かたつむりだ
と いいはるので

それじゃあ
おまえの家は
どうしたのだ
と きいたら

わたしは
自由のかたつむりだから
うちなんか
いらないのだ
と いう
注:
「家」=うち (あてよみ)


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あいさつ


なめくじさんが
-いいおてんきですね
という
なめくじさんの

いいおてんき が
わたしにとっても
いいおてんき
とは かぎらない

でも まあ
あいさつだから
めくじらたてるほどのこともない
と おもい
-ほんとに そうですね
と こたえた


なめくじさんは
-あのひとも
こういうおてんき が
すきなんですよ
と いいふらしている
らしい


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はやりうた


―しいちゃん
 くうちゃん
 りっとるてるちゃん
 ぼたんざくらのくるくるさん
 おやまへおやまへ
 ぱんかいに
 すてっきもって
 やまのぼり

そんなうたが
はやって

みんな ぞろぞろ
山へ のぼっていった

のぼっても のぼっても
山は
はてしなく高い

ぱんは
ほんとに売ってたのかな

もう いくつも
季節がすぎたのに

山へ
ぱんを買いにいったまま
まだ
だれも もどらない


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まほうつかいのくせに


まほうつかいのくせに
おしりに まだ
たまごのからが
ついているよ

たまごのからが
くろいのは
おやゆずりなの?
それとも
まほうにしっぱいしたの?

どっちにしても
そのかっこうじゃ
まだまだ
しんまいだね

いまごろ
ひよこのふりなんかしたって
だまされませんよおー だ


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おばさん どうしたの?


どうして
ないてるの?

あなたみたいな
おんなの子の
わたしと
としをとってしまった
わたしが
ぶつかって

たつまきになって

ふたつのこころが
ぐるぐるまわって
どこかへ
ふきとばされてしまいそうなの


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  1990年5月 初版発行
さし絵・装丁画= こばやしのりこ 編集協力= まど・みちお
ISBN4-87598-029-9 C8092
Copyright (C) 2011 Nobuko Kimura All Rights Reserved.